4節:2stが生き残る方法

1.いかにして未燃ガスを押さえるか?
国内メーカーは何故撤廃と言う方向に動いたのか?

YSP藤沢代表取締役 山本俊彦氏の研究、特許〜

 これまで記載してきたように、2stE/Gではどうしても排出される未燃ガスが問題となっている。これは全開状態(パワーバンドに入った状態)で適性混合気(よりも薄い、いわゆるリーンバーン状態)にある為、その回転数より下にある場合ではどうしても濃い状態になる。その為E/G内で燃焼し切れなかった混合気はそのままEXチャンバーから排出されてしまう。いくら2stEXチャンバーで反響して来ると言っても燃え残ってしまう。その未燃ガスの排出を抑える事に成功した人物がいる。現YSP藤沢代表取締役 山本俊彦氏である。

 これはYSP藤沢代表取締役山本俊彦氏の研究に関してである。これによりCOHCCOそれぞれを格段に減少する事が可能になる。山本氏は、ちょっとした工夫で排出ガスは今よりもクリーンになり、燃費もものすごく向上すると言う。
 具体的には吸気経路の内のキャブレターとリードバルブを繋ぐ部分、丁度リードバルブの入り口部分に多数の孔を設置するだけで、排出ガスのクリーン化や燃費の向上等の多くの問題点が改善出来ると言い、多くの実験や実装テストでもその効果は証明済みである。
 キャブレターにより燃料であるガソリンと空気を混合させて混合気とするのだが、2stE/Gのリードバルブに設けた多数の孔を有するプレートの設置により、混合気の流速を高め一層の乱流が生じて混合気の霧化が促進される。気化が促進された混合気が直にクランク室の吸入空気の一時圧縮室に供給されるため燃焼効率がさらに向上し,燃費の改善も見られる。また、気化された混合気の燃料成分及び僅かながら発生する吹き返しによる燃料成分がプレートの孔に『液滴』となって残り、この残留混合気が次の吸入工程で再度供給される為に燃焼効率が一層向上して、排気ガス中の有害成分も低減可能となる。つまり、リードバルブ室に多数の孔を有するプレートを設置する事により一層の乱流が生じて霧化が促進され、二段階で霧化された混合気が供給される為に燃焼効率が向上し、性能と燃費が改善されると言う仕組である。多数の孔を有するプレートは吸気の流れ方向にほぼ平行に沿わせて配置する事で吸気の流れの流速を低下させる事が無く、混合気の霧化率をより一層向上させる事ができ、燃焼効率の向上及び燃費の改善を図ると共に排気ガス中の有害成分の低減さえ可能である。つまり、現在の2stE/Gではその様な現象が起こっていない為不完全燃焼が生じているのである。
 元々この機構はスクーターの燃費改善が目的だった。バブルが弾けてから、買い物にスクーターを使用する主婦層の燃費に対する目がシビアになって来た。カタログには30km/h走行時の定地燃費がリッター当たり60km等と記載されているが、これは実情にそぐわなく、大体カタログ値の4割ほどでしかない。実用では走行パターンは様々である。山本氏は現在YSP藤沢と言うYAMAHA店の代表取締役であり、顧客への説明を熱心に行うが顧客は納得しない。メーカーでは大幅な改善を行う事は無く、カタログ値もほぼ変わらない。そこで山本氏は独自に改善策を取った。それが1991年の事である。
 かつてモトクロスやロードレースへの参戦を経験していた山本氏は、チャンバーの自作や吸気マニホールドの改良を行いつつオートペットやYA-6のチューンナップを行い、ある時はトーハツのワークスマシンの車体にYA-6のエンジンを搭載したロードレーサーを走らせたりもした。125ccではYA-6改を、250ccTD-1CFISCO30度バンクを疾走、1969年の世界GP(FISCO)のアマチュアクラスにも出場している。現在でもロードレースでは「鎌倉ダブルイーグル」、モトクロスは「藤沢レーシングファミリー」として活動中で、ロードレースではTZ750500を走らせた芳賀信二、TZ350の中田勤、モトクロスでは石井正美、田島久誌ら多くの国際A級ライダーを生み出している名門チームである。この様に山本氏は速く走らせるチューニングは散々行ってきたが、今回はレーサーと正反対とも言える「燃費の向上」をテーマとし研究を始めた。キャブレターの改良や燃焼室の改善、掃気の流れの工夫など、いくつかの改善案を自分で考えて特許を申請(11.12)している。

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山本氏の特許

12

取得済みの特許

特許 2000-329038 エンジンの吸気装置

特許 06-257504 2サイクルエンジン

特許 2000-205060 エンジンの吸気装置

特許 06-257445 2サイクルエンジン

特許 11-093809 エンジンの吸気装置

特許 05-118252 気化器


 しかし2stE/Gの改善については色々考えて書類を作成したが、既に特許申請済みのものばかりであった。だが、以外なのは山本氏の発想が4メーカ(HONDAYAMAHASUZUKIKAWASAKI)やトヨタ、日立の理工系の技術者が申請した発想と殆ど変わりなかった事である。
 研究当初の1991年頃は、混合気を以下にスムーズに流すかという整流をテーマに行っていたが、特許に関してはほぼ全滅状態であった。メーカーの開発を見て分かる通り、燃費のみの改善なら混合気を薄くしリーンバーン状態にすれば燃費は良くなる。だが走りに全く面白みが無くなってしまう。つまりトルクが全く無くなってしまう。アイドリングストップ機構に関しても燃費自体に多少改善は見られるが、根本的なところで2stE/Gを進化させてはいない。だが2stE/Gには排気工程において新気の吹き抜けがあり、燃費や環境面でOH排出に関しては明らかに4stより不利になる。

 しかし、未だ2stE/Gに関しては未完成と言われている。そこで山本氏はあえて逆の乱流について研究を始めた。これまでの内燃機関の進化で、混合気の整流に関する技術や論文は多数あった。レースフィールドにおいてもいかにスムーズに混合気を流すかについてはメーカーを始め、全てが選考していたと言える。だが、エアポケットの存在に関しても山本氏は気が付いており、実験的に混合気の状態を確認してみた。
 するとあまりにもひどい状態だった。キャブレターから入ったガソリンはマニホールド、リードバルブとまるで川の様に気化せずにクランク室へ流れているのである。それはつまりガソリンをクランクの1次圧縮で霧化しているのと変わらないものだった。理論上キャブレターで混合気を霧化しているはずであるが、低回転では全く霧化しておらず流れてしまっていた。リードバルブやエアクリーナーまで2stオイルで濡れる事は今までも経験しているが、リードバルブを使用しても吹き返しを100%防止する事は不可能だと言う事が明らかになった。吸気系には常に吹き返された混合気が漂っており、霧化したはずの混合気も吹き返しに影響されてしまう。その為燃焼効率は極端に低下してしまい燃費にも影響が生じる。ならば吹き返された混合気の成分を受け止め、綺麗に燃焼させてやればもっとリーン側に設定でき尚且つ絶対出力も落とさずに済むのではないかと仮定し、試作と実験を行った。その結果、CO濃度が1/10に減少し、HCCO2の数値についても改善が見られた。

 山本氏が考案した多孔プレート(写真6)は、形状や配置の工夫を重ねる度とにバージョンもアップしており現在ではピストン側にプレートをオフセットさせたバージョン7-9-2”のテスト中(01.4.23現在)である。

写真6

ノーマル/多孔プレート装着インシュレーターの比較


右:ノーマルのインシュレーター及びリードバルブ
左:多孔プレート装着後のインシュレーター及びリードバルブ

 燃費の向上は明らかで、50ccJog・ポシェを使用した市街地での、ほぼ同一条件下のテストにおいては実用燃費で実に78%もの向上と言う数値を示している(13)
 さらに驚かされたのが排出ガスの成分である。触媒付きマフラーを装着したJog・ポシェをBANZAI製の排出ガステスター(580,000)で測定したところ、表14の通りいずれもノーマルを上回る良好な数値を記録している。これまで燃えていなかった成分を、より多く燃やして完全燃焼に近づけてくれている事の証明で4輪車の新車に見られるようなサイレンサー部分への水分の発生(完全燃焼の証)も多いと言う。

13

多孔リードバルブ装着前、装着後の比較

・実用燃費

装着前

29.7km/L

装着後

52.9km/L

多孔プレート車のセッティング
PJ(パイロットジェット<スロージェット>) #42→#36
MJ(メインジェット) #72#68
JN(ジェットニードル) 変更せず

14

・排出ガス測定(触媒前後)

◎触媒手前計測

STD

多孔プレート装着車

CO

3.6

2.5

HC

11500ppm

6600ppm

CO2

3.75

6.0

◎触媒通過後計測

STD

多孔プレート装着車

CO

1.8%

0.92%

HC

3400ppm

1850ppm

CO2

4.56%

8.85%

 この結果からも分かるように、決して大掛かりな装置を必要とせず、吸気関係に僅かな改良を施しただけでこれほどの効果が現れるのも、これまで未開拓だったエリアの改良によるものに他ならないのではないだろうか。
 燃費の改善と排出ガスのクリーン化が可能だと言う事は実証されたが、2stE/Gの特性への変化はどうなのだろうか。燃費の改善が図られていても、リーンバーンに振った時のようにトルクの感じられない、性能の低下したマシンでは改善とは言えない。2stの特性を生かしたまま燃費の改善、排出ガスのクリーン化を図る事で改善と言えるのだ。

 多孔プレートを2st水冷2気筒E/G搭載のYAMAHA R1-Zに装着してテストを続けている(01.4.23現在)が、2stらしさは全くスポイルされずにいるとの事。山本氏の言葉を引用すると、「スロットル開度1/313000rpmまで回る。加速時にシフトダウンしなくてもピューッと加速していく。パワーとトルクが出ちゃってるんだ。ヤマハの人にも乗ってもらったんだけど、ライダーフィーリングはかなり良好で、『静かなんだけど、いつの間にかスピードが出ている。一クラス上のバイクに近いフィーリング。でも何故だろう?』って首をかしげていました。加速時のスモーク、排気煙も見えないくらいでした。」との事。
 元々2stはパワーバンドに入るまではあまりトルク感は感じられず、惰性で回っている感じだが、このコメントを聞くと低回転から今まで以上にトルクが出ていると考えられる。2stレーサーレプリカが全盛であった頃は可変バルブの採用により、ある程度低回転もカバーされてはいたが4stに比べると雲泥の差であった。そこにトルクが上乗せされるのはとてもありがたい事だとユーザーは考えるだろう。

 この事はレーサーレプリカの様に純粋に速さを求める人間だけでなく、スクーター等普段何気なく乗っている人間にとっても悪くない事だと考えられる。スクーターにはあまりトルクが無く、ユーザーはスロットルを大きく開け体全体で押し出すような乗り方になっている。低回転からトルクが上乗せされていれば、スロットル開度を大きくする必要性も無くなり負荷の掛かっていない状態での空吹かし状態も軽減され、サイレンサーの寿命も延びると思われる(ノーメンテナンスのスクーターの排気音はかなり大きい)
 このリードバルブ室はかつてHONDA XR500R(4st)にも装着されていた事がある為、今回のテクノロジーは2stのみのものではないだろう。また、オートバイに関わらず汎用エンジンやマリン関係にも容易に応用が可能である。キャブレターやインジェクションにも対応する事が出来、いずれはディーゼルエンジンにも応用は可能で採用される可能性が無い訳ではない。
 そしてこの機構はレーサーにも応用できる可能性がある。たとえば、低速域からの過渡特性と燃費が良好である為、スタート時に積み込む燃料の量の軽減が可能となり、マシンの軽量化、コンパクト化に貢献してくれる。

 現在、メーカーとしてもテスト中と言われる山本氏考案の多孔プレート装着車は2stマシン全体の再販の可能性を新たに切り開くかも知れない。そうなれば、低コストでシンプルな構造を持ち、軽量・ハイパワー・高性能を誇る新世代の2stマシンがイニシアティブを握る可能性も出て来るのでは無いだろうか。

 上記の通り、前出の触媒機能であるキャタライザーと多孔プレートの装着によりCOHC共にノーマルの約半分に抑える事が出来、尚且つ実用燃費(カタログ燃費ではない)の向上を計る事が可能となる。2stに関してはNOxの排出量がその構造上生成されにくい事も調査済みである。そしてCO2に関してはより完全燃焼に近づいている為に排出量が多くなるが、使用燃料の消費量が減少すれば(燃費が向上すれば)減少する。そして2stの命とも言えるパワーフィールをまったく損なう事も無い。2stE/Gは小改良により、燃費、排出ガスの問題をクリア出来る可能性があるのだがメーカーではその研究について公開していない。
 実際メーカーではこれからスクーターに関しても4st化、そして近い将来キャブレターを廃止しインジェクション化を推進していく見解だ。そこからは、一斉を風靡していた2stを本気で再販しようとする姿勢を見出す事は出来ない。確かに多孔リードバルブを使用しても4stの燃焼効率、燃費の良さと比較すれば劣る所もある。だが、2stE/Gのメリットも多々あるはずだ。それなのに何故メーカーは4stE/Gのみを推進していくのだろうか。

  2.新たなオートバイ用2stE/G作製理論
 2stは排出ガス測定試験と言う建前上の法律の為にこの世から消えてしまったのである。だが、建前上とは言っても法律は法律であり、クリアしなければならない物である事には間違いない。では、2stが販売中止の道を辿る以外の対策は無かったのだろうか。NOxの排出量の少ない2stE/Gである。HCCOの排出量を軽減させる事が可能となれば2stE/G4stE/Gよりもクリーンかつハイパワーなオートバイの販売が可能となる。

 現在の排出ガス規制は2st4stともに下記のようになっている。

2ストローク:CO0.8HC3.0NOx0.1
4ストローク:CO13.0HC2.0NOx0.3

(単位:g/km)

2stE/Gがこの規制値をクリアする為には前出のキャタライザー、多孔リードの利用の他に根本的な策が無いかを検討する。

  2-1 完全燃焼させるためには〜燃焼効率の向上〜
 2stに関しては燃焼温度が低い為NOxの生成は抑えられている。しかしその構造上不完全燃料が発生され、そこからCOHCが生成される。各回転域において限りなく完全燃焼させる(完全燃焼は理論的に不可能)方向にポート、チャンバーを設計しサイレンサーにキャタライザーを搭載させればパワーを落とす事無く測定時の排出ガスは規定値内に収まるのではないだろうか。
 しかしチャンバーはその形状上ある回転域においてのみパワーが出る構造となっており、全域でのパワーアップは限りなく不可能に近いのである。以前HONDANSR250R(MC28)を開発した際に、ポートタイミングを低回転と高回転で2通り持たせるRCバルブの様に、チャンバーも中低速のトルクを引き出すチャンバー形状と高回転域のチャンバー形状の2種類を持たせるチャンバーも考えたそうだ。原理はチャンバーにサーボモーターを装着し、1次テーパーを回転数に応じて稼動させてしまおうと言う物だった。ちなみにこの「トロンボーンチャンバー」と呼ばれていたチャンバーは、残念ながら市販には至らなかった。だが、これらの技術を用いればまだ2stに関しても望みはあるのではないだろうか。

  2-2 ブロアーの利用
 2stの不完全燃焼部分のオイル煙が消えたとしたら排気はこれまでのものと比べても数段クリーンになるはずである。クランクケース内の潤滑を4stの様に満たしたオイルで行う事が可能であれば問題無い。実際、大型船舶等はその手法を採用している(但しディーゼルエンジン)
その手法とは、ブロアーの利用である。元々圧縮比の低い2stはクランクケース内での1次圧縮を利用して吸排気のガス交換を行っている。その圧縮分を補う事が出来れば良いのだ。

 吸気ポートを廃止し、掃気ポートへの圧縮空気の噴射。ガソリンに関してはインジェクターを利用し、シリンダー内へ直接噴射してやる。この事により最適な圧縮比での燃焼が行えるはずである。さらに燃料の直接噴射にはもう1つメリットがある。燃料の噴射タイミングを自由に設定できる為、排気ポートが完全にクローズしてからの燃料噴射が可能になるのだ。これが何を意味するかと言うと、燃料の完全燃焼が理論上可能となるのである。これにより、(空気とガソリンの)混合比、1次圧縮比、燃料の噴射タイミングまでを理想的に持って行くことが可能となり、不完全燃焼部分は限りなく0に近づける事が可能となる。
 これに問題が無い訳ではなく、ブロアーの設置場所やブロアー容量の問題(2stの理想1次圧縮比との兼ね合い)等が挙げられる。だが、この事は然程難しい問題とは言えない。設置場所に関してはキャブレター、エアクリーナーボックスの設置されていたタンク下へ押し込めば良いし、容量にしても1次圧縮に対するデータは各メーカー持っている。後はインジェクションとブロアーを採用した場合のコスト面の問題だけではないだろうか。

  2-3 バルブ搭載型2stE/G
 そして、構造を4stと殆ど同一の機構にする事も1つの手法である。俗に言われるバルブ付き2stである。ピストンの上下動のみをこれまでの2stと共通のタイミングにする事により、4stの機構そのものを利用する2stE/Gになるのだ。これは一部の戦車に搭載されている機構である。各ポートにバルブを設ける事により、未燃ガスを掃気により押し出すという不安定な方法を使わなくて済む。これによって排出ガスは完全に4stと同等のレベルになる。だが、欠点としては4stと同様にカムシャフトを搭載させてバルブを作動させるので、どうしてもその分2stよりも重量が嵩んでしまう。だが、4stと全く同じ構造であれば爆発数の違いにより(理論上)2stE/G4stE/G2倍の出力になる。

 この様に2stE/Gを排ガス規制値内に収める手法は多数存在する。各メーカーが基準値達成不可能として生産中止としたのだろうか。現在の技術であれば間違い無く排ガス規制値のクリアは可能だと思われる。

 第2章では消費者視点から2st4stそしてオートバイ全般を見てみたいと思う。2stはユーザーニーズからはかけ離れた存在なのだろうか。本当に現代にはミスマッチな、過去の遺物となってしまったのだろうか。そこを探っていきたい。

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